2017/12/12
「ぼけ専門研究者」と「収差測定器」
オリンパス・OM-D E-M1 Mk2 + M.ZUIKO DIGITAL ED45mmF1.2 PROオリンパスにはレンズ設計などのカメラ関連の製品開発をする部門のほかに、ぼけ味やゴースト/フレアなどの「良いレンズ」や「良い画質」につながる基礎研究をする部門が別にある。そこでは撮影用レンズのほかに顕微鏡や医療関係の光学製品に役立つ要素技術の研究をしているそうだ。
こんどのED45mmF1.2 PROやED17mmF1.2 PROレンズの設計開発では、レンズ設計部門とその基礎研究部門とが互いに連携を取り合いながら製品化させたという(とくにぼけ味について)。
ぼけ味やゴースト/フレアなどはレンズ設計者がみずからが味つけしたり調整したりするものだと思っていたのだけど(たぶん多くのメーカーはそうだろう)、オリンパスにはぼけやゴースト/フレアだけを専門に研究する人たちがいるんですね。むろん、レンズ設計者が最終的にジャッジメントをするのでしょうけれど、それにしてもそんな人たちがいるとはちょっとびっくり。
(そのワリには最近のオリンパスレンズでは逆光時のゴーストがやや目立つことがあるのは遺憾ではありますが)

45mmF1.2 PROも17mmF1.2 PROも解像力とぼけ描写の両立がテーマのレンズである。そこでレンズ設計にあたっては、ひとつは基礎研究部門の協力、そしてもうひとつがオリンパスが独自に開発した「収差測定器」の活用をすることだった。
その収差測定器はもともとは顕微鏡のレンズ開発の目的で作られた検査器で、それを写真レンズ用に改良したものである。
そうです、気づいた人もいるでしょうが、その収差測定器はニコンの「OPTIA」と同じ原理、同じ目的の測定器である。
OPTIAもまたニコンのステッパー用レンズ開発のために設計された測定器である。ステッパー用レンズも顕微鏡用レンズも無収差レンズを作ることが大きな目標で、そのために開発されたのがOPTIAであり収差測定器であった。オリンパスもニコンもそれを写真レンズ用に改良したものだ。
どちらも、いままでは経験と勘で判断してきたどちらかと言えば情緒的な「レンズの味」を数値測定し定量化するのが目的の測定装置。
解像力やコントラスト、階調再現性などは(ある程度は)数値化して客観評価できるが、とくにぼけの評価は感応的(官能的)なもので気分や好き嫌いなど個人によって評価軸が大きくゆらぐ。
「レンズの味」の基本要素のひとつに、ぼけ(と、残存収差による描写特性)が大きなウエイトを占めるため、これがレンズ設計やレンズ評価を難しくしている(しかしそれがあるからこそレンズ選びが愉しいともいえるのだけど)。
良いレンズだ、と多数の人たちに高い評価を受けているレンズの、その「味=描写特性」を数値化して、つまり定量化することで同じあるいは似たテイストのレンズが作れないものだろうかと考え出されたのがオリンパスの「収差測定器」でありニコンの「OPTIA」である。
オリンパスの収差測定器を本格的に活用したのが今回の45mmF1.2 PROと17mmF1.2 PROレンズからだったようだ。その前に出たED25mmF1.2 PROレンズについては収差測定器の活用は"まだ助走期間中"だったようで一部参考にしたようだが本格的活用はしていなかった。
ついでながら、ニコンの「OPTIA」を本格活用した最初のレンズは「AF-S NIKKOR 58mmF1.4G」だった。ただ ━━ 以下はぼくの憶測、想像だけど ━━ ニコンはOPTIAの採用から充分な助走期間を設けずに「それいけっ」と58mmF1.4Gの設計をやったもんだからやや生煮え状態で、いや個性的でおもしろいレンズなのだが、相当な暴れ馬的レンズになってしまった。ニコンはああ見えても「イケイケどんどん」と突っ走るところがあって、でもソコがいいところなんだけど。
その「反省」と同時に、ニコンはOPTIAの使いこなしにも慣れてきて「さぁどうだ」と胸を張って出てきたのが「AF-S NIKKOR 105mmF1.4E ED」で、柔らかなぼけ味と優れた解像描写力を備えた素晴らしいレンズに仕上げていた。このへんはさすがにニコンです。だからというわけではないですが、ぼくは昨年2016年のベストワンレンズにその105mmF1.4Eレンズを挙げていました。