点像復元処理技術

富士フイルム・X100S

 X100s/X20が新しく採用した機能や機構のなかで、ぼくとしては、もっとも注目すべき機能こそが「点像復元処理 ―― Lens Modulation Optimizer(LMO)」だと断言したい。回折現象により低下した画質を元に近い状態に"復元"する画像処理技術である。

 絞り込むと(小絞り)、その小さな「穴=絞り」の周囲に光りが広がって、それが原因でフレアーが発生して解像感やコントラストを低下させる。これが回折現象である。収差と回折は画質低下の"2大元凶"でもある。回折はフィルム時代から発生していた現象だがデジタルカメラの時代になり、とくにイメージセンサーの高画素化と、撮影画像を拡大して鑑賞するようになって、回折が画質に与える影響がフィルム時代よりも桁違いに大きくなった。

 回折現象による影響をできるだけ目立たなくする方法(復元技術)のひとつが、点分散関数とかデコンボリューションとよばれている信号処理技術である。
 理論としては古くからある。レンズの焦点距離、撮影距離(ピントを合わせた位置)、絞り値、レンズ収差などの情報データを関数化して、回折で影響を受けたフレアー画像にかけ合わせることにより、"擬似的にフレアーを除去=復元"する画像処理技術である(かなり乱暴な説明だけど)。これを利用すれば小絞りでも、回折による画質低下が抑えられるというものだ。



 ところで、このような画像処理技術は、すでにキヤノンが専用画像処理ソフトのDigital Photo Professional(DPP)の中で、「デジタルレンズオプティマイザー」の機能のひとつとして組み込んでいるはず ―― これについては、一昨年のことになるがキヤノンに取材に行った。そのとき、「デコンボリューションの技術を使っているんですか」と聞いたところ、「それについてはノーコメントです」と、担当者は答えてそれ以上説明をしてくれなかった。ということは、暗に認めているということじゃないのか…。

 それはともかくとして、関数化するためのレンズ情報や撮影時のデータ量は膨大である。ソフト処理するのにパワーも時間もかかる。そのためパソコンなどの高速な処理能力に頼らざるを得なかった。キヤノンがそうだ。
 ところが、X100s/X20では独自の復元アルゴリズムを作り、それをICチップにしてカメラ内に組み込んだ。ここがすごい。ソフト処理ではなくハード処理化したことで、ほぼ瞬時に処理がおこなえる。画期的なことだ。

 ちなみに、X100s/X20の点像復元処理により、フジは、回折による影響(画質低下)が約2絞り分ほど抑えられる、と言っている。
 実際にあれこれ撮り比べてみたが ―― といっても厳密に撮り比べられるカメラがないのだが ―― 点像復元処理で得られた画像をよく見ると、確かに回折現象の影響が少なくなっていることはわかる。光学ローパスフィルターを取り除いた画像のように一目瞭然というわけにはいかないけれど。

 画期的な処理技術が始めてカメラ内に組み込まれたこと、ユーザーが知らないうちに処理してくれること、将来もっと進化する可能性も秘めている。高画素化しても絞り込んで撮影できるようになる。そんなことなどを考えれば、富士フイルムの点像復元の処理技術には大きな大きな「夢」があると言えるのではないか。