レトロフォーカスタイプについて

富士フイルム・X-Pro1+カール・ツアイス・Touit 2.8/12

 写りについてだけ言えば素晴らしいレンズだ(しかし外観デザインは悪い、どこかでデザインの賞をもらったそうだが信じられない…)。
 F2.8の開放絞りで写して画面周辺四隅までこんなにぴしつと描写する超広角レンズは、ぼくはいままでに経験がない(X-Pro1のほんらいの画質の良さも手助けしているが)。

 その描写については、ひとまず横に置くとして前回のブログの続きだ。この「2.8/12」レンズが、なぜ、ミラーレス用交換レンズなのにバックフォーカスを長くするためのレトロフォーカスタイプをレンズ設計を採用したか。
 理由のひとつはテレセントリック性を求めたためではないだろうか。バックフォーカスを充分に長くすればレンズ後端から出てくる光をイメージセンサー面にたいして真っ直ぐにすることができる。周辺光量不足を目立たなくできるし、それほどレンズ設計に苦労しなくても画面周辺部での描写性能も確保できる。

 18mm相当という超広角画角にもかかわらず、描写にぜんぜんクセがなく、F2.8開放絞りでも中心部から周辺部まで歪まず流れず崩れずの写りをしているのは、ひとつにはそうした理由があるのだろう、と思う。


 しかし、テレセットリック性を求めるためだけに「2.8/12」はレトロフォーカスタイプを採用したのだろう。いいや、レンズ設計はそんなに単純なものではない。
 レトロフォーカスタイプのレンズの、あえて一般的な欠点をいうとすれば、バックフォーカスを長くするためにレンズが大きくなる(実際「2.8/12」はデカいレンズだ)、収差を効果的に補正するために非球面レンズなど高価な硝材が必要(非球面レンズ2枚使用)、ディストーションが目立ちやすい(どうもカメラ側の画像処理で歪曲補正しているようだ)、などなど。

 レンズ設計は、こうした長所や欠点、そしてコスト(これが重要)や製造技術などを考慮したうえで徹底した光学シミュレーションをしたうえで作られるものだ。ひとつの「目的」だけを求めてレンズ設計されることはない。

 この「2.8/12」レンズは撮影距離や絞り値にかかわらず、とにかく描写性能がすこぶる安定良好なのだが、使っていてつくづく「こりゃあ、相当に優れたレンズ製造技術や検査技術を備えたところで作っているんだろうなあ」と感じ入った(いままでに数百本におよぶ各社のレンズを使ってきたのだからソレくらいはナンとなくわかる)。
 レンズ鏡筒には大きな文字で「Made in Japan」とある。Carl Zeissはドイツの光学機器メーカーである。