ニコンマウントレンズで初の電磁式絞り機構

タムロン・SP 85mmF1.8 VC+ニコン・D750

 タムロン製のニコンマウントレンズとしては、このSP85mmで初めて電磁式絞り機構を採用した。ニコンはずっと長い間、機械式絞り機構を続けていたが(キヤノンEFレンズは当初から電磁絞り)、数年前から"こっそりと" ━━ どうもそんな感じなのだ ━━ 一部の新型レンズに電磁絞りを組み込むようになった。レンズ名に「E」の略記号があるレンズがそれ。
 少しづつ「E」レンズが増えてきて、ようやくタムロンもそれにならったというわけだ。




 タムロンもシグマもそうだが、いくつかのマウントに対応した交換レンズを作るとき、いちばん"足を引っ張っていた"のがニコンマウントだったという。始めの頃は、絞りリングの作動メカニズムと絞り羽根の駆動のメカニズムがニコンマウントレンズには必要だった。キヤノンマウントに比べれば部品点数も多く、調整もたいへん。それがいつの間にか、まず絞りリングがなくなった。でも最後まで残っていたのが機械式絞り機構だった。
 交換レンズのメーカーとしては、対応カメラボディが異なってもできるだけ共通部品を使って製造したい。

 そういうわけで、キヤノンマウントよりもニコンのレンズのほうが手間取ってしまう。だからタムロンもシグマも、まず始めにキヤノンマウントを発売して、しばらく経ってからニコンマウント、というのがお定まりのスタイルだった(タムロンはそれはイカンということで2年ほど前から社長命令で「キヤノン/ニコン同時発売」をめざすようになった)。
 電磁絞り機構を採用してもよくなって、いちばん喜んだのは(たぶん)タムロンの鏡枠設計の技術者だったのではないか。

 ニコンは、機械式絞りの方式にずっとかたくなだったし、その機構をイバッテもいた。
 「キヤノンの電磁絞りはね、高速連写したときに絞り込めばだんだんと連写速度が落ちてくるんです、高速連写について行けない。でもニコンの機械式絞りはね、秒間10コマといえば、開放絞りでも最小絞りでもきちんと10コマで撮れます、電磁式とはソコが違うんです。」ニコンの幾人かから(だれ、とは言いませんが…)何度もそうした話を聞いた(言い方は、多少誇張ぎみではありますが…)。

 でも、とくに望遠レンズでは機械式絞りの機構を使って高速で正確に絞りを設定するには(やってやれないことはなかっただろうけど)、絞りを開閉させるために長いガイドピン(蹴りピン)が必要だったりして、そろそろ限界だったのではないか。アクチュエーターを含めた電磁式絞り機構の進化もあったに違いない。
 つまり、いままではキヤノンマウントのレンズは電磁式絞り、ニコンマウントのほうは機械式絞り、という「異なった仕様」でタムロンはレンズ作りをしなくてもよくなったよ、というのが本日の話。

ポートレート専用レンズだ! と断定するタムロン

タムロン・SP 85mmF1.8 VC+ニコン・D810

 タムロンはこのSP85mmを「純粋ポートレートレンズ」であるとか、「人を撮るために誕生した」レンズであると、さかんにアピールしている。まるで人物撮影の専用レンズであるかのような断定的表現が目立つ。カタログやホームページを見ても、女性ポートレートの写真ばかりだ。若い女性の人物写真だけで、子どもや男性のポートレートもまったくないのもヘンだ。

 まるで、タムロンSP85mmレンズが人物専用、それも女性ポートレート専用のレンズであるかのようで、女性以外の撮影には不向きなレンズなのか、と意地悪く突っこみたくなるほどだ。あまりにも断定的、一方的すぎる。




 SP85mmはポートレート撮影に適したレンズなのだと、それほどまでにタムロンがいうのであれば、「なぜ、SP85mmがポートレートに最適なのか」、その解説(理屈)が述べてあってもいいはずだ。ところが、それがどこにも見あたらない ━━ ぼくの見落としかもしれないけど。

 このSP85mmレンズのタムロンのプロモーションのやり方を見ていると、女性ポートレートを撮影しないユーザーたちを完全シャットアウトしているかのようじゃないか。SP85mmレンズの魅力をみずから削いでいるみたい。
 花や自然風景や、街角のスナップや身の回りのお気に入りを撮影するようなレンズではない、と言われているような ━━ と、感じるような単純な人はいないとは思うが。

 焦点距離や画角にまつわる古くからの概念にとらわれることなく、撮影シーンや被写体を限定せずに自由自在、ユーザーの好き放題にレンズを使いこなせばいいと思う。

 せっかくの、大口径中望遠レンズに手ぶれ補正を苦労して内蔵させたレンズではないか、人物撮影以外にも適したシーンや被写体があるはずだ。このレンズを企画した人も、設計を担当した人や製造にかかわった人たちも、SP85mmは人物限定ではなく多くのユーザーにいろんなシーンを撮影してレンズを愉しんでもらおうと思っていたはずだ。
 タムロンのプロモーション担当の人たちは、そのへんをよく感じ取ってSP85mmをアピールすべきだったのでは…。

 というわけで、タムロンSP85mmはけっしてポートレート撮影専用のレンズというわけではなく、森羅万象どんな被写体やシーンに対しても使えるオールマイティなレンズだと、ぼくは使ってみて、つくづくそう思いました。手ぶれ補正もいろんなシーンで有効活用できたし。

 レンズにかかわらずカメラもそうだけど、メーカーはできるだけ使い道の門戸を広げるようにしておくべきですね。ハナっから使用目的を限定してはいかんのじゃないか、と思うわけですよ。

手ぶれ補正内蔵にこだわるタムロン

タムロン・SP 85mmF1.8 VC+ニコン・D810

 シャープネスはやや控えめで柔らかな描写特性をもったレンズである。
 だから、実質的な解像力は充分にあるのだが、いっけんする解像感に乏しい印象を受けるかもしれない。最近の「はやり」とも言えるカリッとして解像感バリバリのレンズではない。上品な描写だ。おとなのレンズ。
 ぼけ味は、トゲトゲしさはなくふんわりとしている。ただ、口径食が目立つのが(しいて言えば)欠点か。




 誤解されると困るのだが、たとえばの話ですよ、シグマやツアイスのレンズはカリカリッとした鮮鋭感と解像感があって、いかにも多くの写真愛好家が喜びそうな描写、そんな傾向が強い。それに対して、SPシリーズのタムロンレンズはとくにそうなのだが、カリカリ描写を避けて緩やかな諧調描写を重視したレンズ設計を狙っているようなところがある。
 すでに発売されているSP45mmF1.8 VCも、SP35mmF1.8 VCも、そうした傾向があるような印象で、タムロンが「独自色」を打ち出そうとしているような気もする。

 もう1つのタムロンの独自色は手ぶれ補正内蔵である。手ぶれ補正内蔵レンズに"こだわりまくっている"ような感じもしないでもない。

 とくに大口径レンズの場合、手ぶれ補正の機構をレンズに内蔵しないほうが、(一般的にだが)優れた描写性能の、より小型軽量なレンズを作ることができる。それを承知の上で、敢えてタムロンは手ぶれ補正内蔵と優れた描写性能を両立させる企画をたてて、大変に苦労をしたようだ。
 描写性能と手ぶれ補正は狙い通りだったようだが、大きさと重さ、最短距離、そして価格については、やや当初のもくろみ通りにはいかなかったような……。最短だけでも、もう少しがんばってほしかった。

 手ぶれ補正の機構(VC)を内蔵した、一眼レフカメラ用の、焦点距離85mmの、F1.8クラスの大口径中望遠レンズではこのタムロンのものが唯一である。タムロンの技術者たちの、そのチャレンジ精神を高く評価してもいいだろう。

コンテンポラリーラインの30mmF1.4レンズ 《 その5 》

シグマ・30mmF1.4 DC DN+オリンパス・PEN-F

 5~6年ぐらい前からシグマは、良い方向に大きく変化してきているように感じる。シグマの創業者でもあり優れた技術者でもあった先代の故山木会長から、現社長の山木さんにバトンタッチされたころからだろうか。

 先代山木会長はシグマを「レンズメーカー」としてではなく「カメラメーカー」として育てていくことに熱い情熱を持っておられたようだ。フィルムカメラの時代からこつこつと一眼レフやコンパクトカメラを作り続けてきた。その流れがフォビオンを子会社化したことにつながっているのだろう。
 シグマにとってカメラ作りはなかなか儲けにはならない事業だ。交換レンズで得た利益をカメラづくりに投資しているかのようだ。でも、苦労しながらも山木社長が先代の意思を受け継いでカメラを作り続けていくことは、ブランドイメージを高めるなどシグマにとっては「良い効果」をもたらしているように思う。




 山木会長は亡くなられる直前まで、本社(神奈川県黒川)のレンズやカメラの設計部門はもちろん、福島県の会津工場の製造現場の隅々まで目を光らせておられた。毎週、二日から三日は会津工場に出かけて現場で指示を出していたほどだった。新製品の企画や計画も会長自身が決めていた。
 どんな製品をどの順番で作って売っていくかの詳細なリストを自分で作って管理もしておられたという。だからシグマには長い間、「製品(商品)企画部」という部門そのものがなかった(数年前にようやく企画部ができた)。

 製品作りの基礎技術を長期間かけて地道に育てていったのが故山木会長で、それを上手に受け継いで花開かせたのが現社長の山木さんだとも言える。
 山木社長が中心になってシグマを引っ張っていくようになったころからだろうか、シグマは積極的に「外」に向かって発信するようになった。シグマの「顔」が見えるようになり、認知度は広がっていった。
 それに伴って社員のモチベーションがだんだんと向上し(とくに若い社員が元気になってきた)、製品の性能と安定性が大幅に良くなり(ベテラン技術者の存在が大きい)、さらには他社では到底考えつかないような(企画しても無視されるような)思い切った商品展開をするようにもなった。シグマのブランドが注目され光り輝くようになってきた。

 今年2月下旬にCP+が開催されたときのこと。
 シグマの会津工場で働く人たち約120名が、バスをチャーターして日帰りでCP+の見学にやってきた。早朝に会津を出発して、その日の夜遅くに会津に戻るスケジュール。工場でもの作りをしている人たちにCP+の会場の雰囲気を体験してもらおうと、シグマが企画した(発案はどうも山木社長らしい)初めてのツアーだという。交通費などは無料。ツアー参加を募ったところ予想以上の希望者になったという。

 CP+の会場を見て回れば、他社のこともシグマのことも実感としてわかる。レンズやカメラを作る人たちの「励み」にもなるだろう。生産現場の人たちが、自分たちが大切に作った製品を使ってくれているユーザーの様子をじかに見て、感じることの意味は大きかったと思う。山木さん、なかなかやるじゃないか、と感心した。

コンテンポラリーラインの30mmF1.4レンズ 《 その4 》

シグマ・30mmF1.4 DC DN+オリンパス・OM-D E-M1

 シグマのレンズ性能が近年、にわかに良くなってきたのにはいくつかの「理由」が考えられる。

 その1つは、米国のフォビオン社をシグマの100%子会社にして、イメージセンサーを「共同開発」するようになったことだろう。
 やや荒っぽい言い方だが、それまでのシグマのレンズが「フィルム基準」だったのが、フォビオンセンサーを自社のカメラに積極的に採用するようになって、レンズ性能を「デジタル基準」に大きく舵を切ったように思う。フォビオンセンサーは高周波成分の描写再現がとくに際立っていて、そのイメージセンサーの実力を発揮させるためには「フィルム基準」のレンズ性能のままでは不十分だということをシグマ自身が実感するようになったのではないか。




 さらには、フォビオンセンサーを共同で開発していく過程で、いままでシグマが気づかなかった「イメージセンサーとレンズ光学との相性」のようなものが具体的に見えてきたのかもしれない。それが見えてくれば、高画質化しつつあるデジタルカメラに最適な光学性能、要求されるレンズ性能の目標値も明確になる。

 その頃からシグマでは、レンズ光学設計の基本原則の見直しが始まっただろうし、レンズ製造の方法や検査基準の大幅な改善もおこなわれたに違いない。
 レンズ設計側ではフォビオンセンサーを充分に生かせるだけの優れた性能を持ったレンズを設計すること、製造側では一つ一つの部品や検査の精度をあげてばらつきのない安定した製品を生み出していこうとしただろう。
 ずっと昔のシグマレンズといえば「当たり外れ」が多いことが難点のひとつだった。レンズの性能にばらつきが多かったのだが、近年のシグマレンズにはそうした傾向はほとんどなくなり、品質、性能がとても安定してきている(それも、高水準で安定)。
 近頃のシグマレンズの性能向上の大きな要因こそは、この安定性ではないかとぼくは考えている。

 とくに会津工場の製造現場が変化したと思う。
 フォビオンセンサーを利用して作り上げたといわれている新しいレンズ性能検査器を導入したことも品質や性能を向上させるきっかけになっているだろう。また、製造したレンズを最終出荷する前に、1本1本すべてを検査するようにもなったこともいい結果に結びついているのだろう。
 むろん、こうした全品検査や品質を向上させる取り組みは、シグマ以外のメーカーでもとうぜんおこなわれていることだ。ただ、他社とシグマが異なるのは、レンズ製造にたずさわる会津工場の人たちの品質に対する意識が変わったことではないかとぼくは想像する。

 会津工場でレンズを作る人たちにとっては、アート、コンテンポラリー、スポーツといったラインの区別などなく、とにかく「性能の良いレンズを安定して製造しよう」というひとりひとりの意識が違ってきたのではないか。
 製造機械や検査機器をどれだけ優秀なものを使っていても、それを使いこなす「人」の意識(モチベーション)が明確にならないと優れた製品を安定的に作り出すことは難しい。結局は人のチカラだ。
 そのへんの話を、次回でもう少しだけ……。

コンテンポラリーラインの30mmF1.4レンズ 《 その3 》

シグマ・30mmF1.4 DC DN+オリンパス・PEN-F

 以下、シグマ製品についての、やや"おたくっぽい話"になります。

 30mmF1.4 DC DNのような、ミラーレスカメラ用のAPS-Cサイズとマイクロフォーサーズのセンサーをカバーするレンズには、シグマからはすでにF2.8単焦点シリーズとして「19mmF2.8 DN」、「30mmF2.8 DN」、「60mmF2.8 DN」がある。ちょうど3年前の2013年3月の発売開始で、いまも継続販売中(当初からレンズ名にDCはついていない)。

 注目したいのは、これら3本はすべて「アートライン」のレンズであることだ。
 アートラインのレンズは「……最高の光学性能と豊かな表現力に集中して開発……」とシグマが胸を張る高級レンズである。ところが、この3本は「アートライン」にランクするには少しもの足りないところがなくもない。価格も安かったし「コンテンポラリーライン」の中クラスのレンズではないだろうかと、発売時に奇妙な印象を持っていた。




 今回、あらためて新型30mmF1.4 DC DNレンズと旧型30mmF2.8 DNレンズを撮り比べてみたのだが、文句なしに新型30mmF1.4レンズのほうが良い。解像描写力がだいぶ違う。なのに、旧型30mmF2.8がアートのレンズ、対して新型30mmF1.4がコンテンポラリーのレンズである。
 この写真の、左がアートの旧型30mmF2.8、右がコンテンポラリーの30mmF1.4。開放F値が異なるけれど、見るからに右の30mmF1.4レンズのほうが立派で性能も良さそうだ。そもそも、左の30mmF2.8レンズはDP2 Merrill(2012年7月発売)の内蔵レンズと光学系はほとんど同じで、それを交換レンズ化したもの。「流用」とは言い過ぎだが、それに近い。

 旧型30mmF2.8が発売されたのは3年ほど前のことで、アート、コンテンポラリー、スポーツのプロダクトラインがスタートしたばかりだ。たぶん、シグマとしては新しくプロダクトラインをスタートさせて気分が高揚していたのだろう、ついご祝儀のような気持ちで ━━ ほんらいはそれほどの実力がなかったにもかかわらず ━━ その30mmF2.8をアートレンズとしたのではないか。

 30mmF2.8 DNだけでなく、19mmF2.8 DNも60mmF2.8 DNも、ちょっとした手違いによる「ご祝儀アートラインのレンズ」だとぼくは考えているのだが、しかし、その頃を境にして急激にシグマ交換レンズの性能が良くなってきたのだ。
 シグマ・プロダクトラインが本格的に走り始めてから、それ以前のシグマのレンズに比べると、大幅に性能が良くなってきたし、レンズごとのバラツキがなくなり、レンズ操作性も外観のクオリティーも大変に良くなってきている。

 シグマにどんな変化があって、製品(レンズ)の性能や品質がこれほどまでに良くなってきたのだろうか。
 いくつかの理由はあるだろうが、そのひとつはレンズの設計や製造、調整をしているメンバーひとりひとりの「やる気(モチベーション)」がはっきりとしてきたからではないかと、ぼくは思うんですよ。

(追加情報)
 旧型30mmF2.8 DN交換レンズについて1つ言い忘れていたことがあった。
 この30mmはDP2 Merrill 内蔵固定式レンズをモディファイして交換レンズに仕立てたレンズだということは述べた。そのDP2 Merrill での30mmと、単体30mm交換レンズとでは描写がだいぶ違っていた印象だった。内蔵30mmはとても良かった。そんなことを、昨夜、思い出した。どうでもイイことだけど…。



コンテンポラリーラインの30mmF1.4レンズ 《 その2》

シグマ・30mmF1.4 DC DN+オリンパス・OM-D E-M1

 このシグマ30mmF1.4レンズには「DC」と「DN」という"シグマ独自の記号"が付いている。DCの意味するところはAPS-Cサイズセンサー対応のレンズ、DNはフランジバックの短いミラーレスカメラ対応のレンズであるとの意味。
 すなわち30mmF1.4レンズは、ミラーレスカメラ用でAPS-Cサイズセンサーをカバーするイメージサークルを備えたレンズということになる。いまのところ対応マウントはソニーEマウント用と、マイクロフォーサーズ用がある。今回使用したのはマイクロフォーサーズ用マウントの30mmF1.4レンズだった。




 APS-Cサイズセンサーのサイズに比べればマイクロフォーサーズは二回り以上も小さい。実写画角でいうと、APS-Cサイズでは約45ミリ相当、しかしマイクロフォーサーズでは約60ミリ相当となる。イメージサークルの大きさで言えば、APS-Cサイズは直径が約28ミリの円になるが、マイクロフォーサーズセンサーだと直径は約22ミリとだいぶ小さい。
 ということは、30mmF1.4レンズをソニーEマウントカメラで使用するのと、マイクロフォーサーズのカメラで使用するのでは、とくに周辺部の描写性能ではマイクロフォーサーズのほうがだいぶ良いはずだ。

 ただし残念ながら、ぼくはこの30mmF1.4のソニーEマウントを使って実写していないので、APS-Cサイズでの描写実力がどの程度か不明ではあるが……たぶんマイクロフォーサーズでの描写と同等というわけにはいかないだろう。
 マイクロフォーサーズではイメージサークルの中央部付近の「いいところ」を使うわけだから、画面の中央部から周辺部にかけて均一で優れた描写性能が確保できる。シグマが公表しているMTF図を見てみればわかることだが、マイクロフォーサーズの最大像高である約11ミリあたりまではほぼ水平状態で、それを越えるとコントラストが急激に低下してしまっている。

 マイクロフォーサーズにとっては大変に贅沢な使い方をしているためもあって、写りがイイのはとうぜんだと言える。高性能なフルサイズ判対応のレンズをAPS-Cサイズのカメラで使用するのと同じと考えればよい。
 まったく同じ光学系の30mmF1.4レンズでも、ソニーEマウントだと「コンテンポラリー」相当だが、マイクロフォーサーズマウントだと「アート」相当になるという2つの顔を持ったレンズといえなくもない。

 というわけで、このシグマの30mmF1.4レンズはマイクロフォーサーズのカメラユーザーにとってはちょっと注目しておきたいレンズのひとつ。F1.4の開放絞り値から、なんの遠慮も心配もなく撮影ができる。
 60mm相当の画角で最短撮影距離も30センチだから、けっこうなクローズアップができるし、その近接時の描写もいい。マイクロフォーサーズカメラにとっては文句なしのアートラインのレンズだとぼくは思う。

 ところで、ひとつ不思議なことがあって、それは、この30mmF1.4レンズがAPS-Cサイズをカバーするイメージサークルを持っていながら、ソニーEマウント以外に、なぜ富士フイルムのXマウントやキヤノンのEF-Mマウントを用意してラインナップしないのか、なにか「大人の事情」でもあるのかと、それとなくシグマに聞いてみたのだが、「いいえ、ただ単にマンパワーが不足しているからです。やってやれないことはないと思うんですが、ウチの会社はそんなにたくさんの技術者がいるわけでないですから」と。ホントかな……。

コンテンポラリーラインの30mmF1.4レンズ 《 その1》

シグマ・30mmF1.4 DC DN+オリンパス・OM-D E-M1

 シグマは数年前に、3つのプロダクトライン方式を導入した。交換レンズをシグマ内で「ブランド化」しようとするものだ。このプロダクトライン方式を導入して以降、すべてのレンズは「3つのライン(枠)」のどれかに振り分けられてから設計、製造され発売されている。
 このプロダクトライン、大変に説明が難しいのだが(じつは、ぼくもよくわかっていない)、シグマが発売するレンズはすべて、レンズの品質や品位、使用目的などによってラインに分けてシリーズ化している。

 このシグマ・プロダクトラインは「松竹梅」や「上中下」といった単純な区分けではない。3つのラインに分類するには、シグマ内にいろんな約束事や基準があるらしいのだが、しかし外部のものにはそれがイマイチわからない。シグマもそれを積極的に公表しない。
 むろん、他のメーカーのレンズはこうしたプロダクトラインの思想はない。シグマ独自、独特のものだ。




 プロダクトラインにはアート、スポーツ、コンテンポラリーの3つがある(3つしか、ない)のだが、ごくごく簡単に言えば、アートラインはシグマが定めた優れた光学技術と製造技術を駆使して作り上げられた大口径レンズ、スポーツラインは望遠系レンズ、コンテンポラリーラインはコストパフォーマンスを重視して設計されたおもにズームレンズ。
 ということになっているのだが、当初の狙いから少しづつズレてきて「枠」からはみ出すようなレンズもちらほら出始めてきた。

 たとえば、2本の150~600mmズームレンズがそうだ。ほとんどそっくりなスペックで、スポーツラインとコンテンポラリーラインのレンズがほぼ同時に発売された。開放F値(ほんのわずか)や光学設計(それなりに)、価格(相当に)が異なるがカバーする焦点距離は同じだし、サイズもそれほど違いはない。
 撮り比べてみれば、「安いコンテンポラリーのレンズなのに、へぇ、こんなに良く写るのか」と驚いたと同時に、いっぽう10万円も高いアートのレンズなのに際だって優れた描写性能が(ぼくには)あまり感じられなかったのが印象に残っている。
 150~600mmズームは、強引にアートラインやコンテンポラリーラインの「枠」の中に押し込んでしまったような感じがしないでもなかった。ユーザーとしてはちょいとわかりにくい。

 それと似たような印象を受けたのが、そう、このコンテンポラリーラインとして発売した30mmF1.4 DC DNレンズだった。フォーサーズ用マウントとソニーEマウント(APS-Cサイズ用)がある。
 コンテンポラリーなのにF1.4という大口径だし、大きいレンズだし、価格も高い。開放F1.4から大変に良く写る。素晴らしい描写性能なのだ。アートラインのレンズ、といってもいっこうに差し支えない、そんな感じ……。
 なにか「ワケあり」かと疑っていたら、「なーんだ、そうだったのか」と気づいたことがあった。


「高画素=高画質」の時代

オリンパス・PEN-F+M.ZUIKO DIGITAL ED7~14mmF2.8 PRO

 PEN-Fはオリンパスのレンズ交換式デジタルカメラで初めて、2000万画素を越えるイメージセンサーを採用した。マイクロフォーサーズのセンサーサイズを考えれば、文句なしの高画素カメラである。
 画素数が多くなるほど高感度での画質が悪くなる、とハナから信じてる人がいる(デジタルカメラの高画素化を安直に否定する人たちの古くからの最大の訴求ポイントでもある)。しかし実際には、画像処理技術やセンサー性能が向上してきているから、センサーが高画素化しても否定派が"期待"するほど高感度での画質低下はない。




 高画素化すれば解像力や諧調描写力が向上するという大きな利点がある。最近は(ようやく)そのメリットがクローズアップされるようになってきたのはいいことだ。「高画素=高画質」の時代になりつつある。
 加えて、注目しておきたいこと1つ2つある。
 画像処理技術やセンサー性能が良くなったと同時に、レンズ性能も飛躍的に向上してきていること、手ぶれ補正技術が飛躍的に進化してきていることも「高画素=高画質」をすすめている。こうした総合的な技術進化が高画素をバックアップして、画素数が多くなることの"デメリット"をどんどんと消し去っている。

 とくにオリンパスの交換レンズの性能アップは最近めざましいものがあるし、PEN-Fはボディ内手ぶれ補正とレンズ内手ぶれ補正を同時作動させる5軸シンクロ手ぶれ補正システムに対応している。自分のせいで手ぶれしているのに「レンズが悪い」と、とんちんかんなクレームを言う人も、これからだんだんと少なくなるだろう。
 ただし ━━ これを言い過ぎるとオリンパスにますます嫌われるが ━━ オリンパスの場合、AF性能がもう少し向上してくれれば画質的にはもういうことないんだけど。

 約1600万画素のOMシリーズ機種と約2000万画素のPEN-Fとで、いく度か、いろんなシーンで撮り比べてみた。結果は、高ISO感度での画質はほぼ同等かPEN-Fのほうが少し良かったし、解像描写力は(当然だが)PEN-Fのほうが優れていた。性能の良いレンズを使えば使うほど、それをはっきりと実感できる。

 ここで(おせっかいな)アドバイスをひとつ。
 PEN-Fにはカラープロファイルコントロールだとかカラークリエーター、ハイライト&シャドーコントロール、モノクロプロファイルコントロールなんて、まったくもってどーでもいいような複雑怪奇な撮影モードが盛り込まれているが、このカメラを使い始めたら、しばらくは近づかないほうがよろしい。
 せっかく搭載されているのに使わないのはモッタイナイ、なんて考えずに無視しておくのがPEN-F使いこなしの大切なポイントです。

PEN-Fの「隠しビス」のありかを報告

オリンパス・PEN-F+M.ZUIKO DIGITAL ED 40~150mmF2.8 PRO

 前回のブログで、PEN-F外観のどこを探してもボディ固定のためのビスが見あたらないが「隠しビス」がある。そのありかは内緒にしたままだったが、その後ぼくの twitter (@thisistanaka)の中でフォロアーの方に、あっさりとその場所を解明し指摘されてしまった。
 そこで以下、詳しく種明かし。




 というほど大袈裟なことではないが、バリアングル液晶モニターのボディ側背面にあるカバーを剥がす。すると、ほら、こんなふうにビスがいくつか出てくる。
 ちなみに、このボディ背面はプラスチック製。穴のあいた金具は強度を保つためと(たぶん)放熱の役目をはたしている(のだろう)。

 PEN-Fを分解修理するときは、写真のようにボディ背面の張りカバーを剥がし、まず矢印の2つのビスを外してボディ下カバーを取り外すことから始めるようだ。ボディ前面の張りカバーを外すと同じようにビスが出てくるのでそのビスも外す、などしながら ━━ twitterでソコを指摘したフォロアーの方もいた ━━ 分解していくそうだ。
 カメラの組み立ても修理も大変に手間のかかるめんどうなツクリにしている、その理由はただ一つ、PEN-Fの外観を美しく仕上げるためだったそうだ。

 というわけで、今回、「隠しビス」のありかがわかるように分解に協力していただいたオリンパスのHさん、ありがとうございました。

PEN-Fは美しいスタイルのカメラだ

オリンパス・PEN-F+M.ZUIKO DIGITAL ED 12~40mmF2.8 PRO

 PEN-Fはスタイル(外観デザイン)が大変に良い。前から見ても後ろから見ても、精密で精巧なカメラらしい美しく上品なスタイルをしている。
 ただし操作性については、メニューのUIはあきらめるとしても、ボタン類がやや小さすぎて難儀することもあった。もうひと回りほど大きければ操作感はだいぶ違っただろう。
 しかし、メインスイッチダイヤル、モードダイヤル、露出補正ダイヤル、そしてボディ全面にあるクリエイティブダイヤル、前と後のコマンドダイヤル、この6つのダイヤルの操作感はすこぶる良い。指で触れたときの感触と、操作したときに指先に伝わる確実感がいい。




 その6つのダイヤルはすべて金属製で、同じパターン(こまかな綾目(アヤメ)模様)のローレット仕上げである。PEN-F以外のOMシリーズのダイヤル類は、ローレット仕上げではあるのだが綾目と平目が混在していて、なんといいましょうか優柔不断な感じがして気になっていた。
 ところがPEN-Fでは、どのダイヤルも同じパターンにしているので統一感があって、とてもイイ感じ。デザイナーのこだわりがカメラを操作する指先に伝わる。

 ボディ左上部のメインスイッチダイヤル、この操作がやりにくい、なんてコメントを聞いたことがあるが、ぼくにはそんな印象はまったくない。ぼくはいつも左手の人差し指でON/OFFをしているのだが、カメラを持ったと同時に軽やかに確実に作動できる。いい感じだ。

 ところで、このPEN-Fの外観のどこを探してもビスが見あたらないのをご存じだろうか。ボディマウントを固定している4本のプラスビスを除けば、ボディ上部、ボディ下部、背面、横面のどこを見ても1本の固定ビスもない。試しにバッテリー蓋を開けて電池を抜いて、その底部を見てみるがいい。そこにもビスはない。
 では、カメラを修理分解するときにどうするのか、といえば方法がある。しかし、それは内緒にしておく。不思議なカメラが世の中にひとつぐらいあってもイイじゃないか。
 ことほど左様に、このPEN-Fはカメラのスタイリングと操作感に充分に配慮されている(配慮が行き届かないのはメニューのGUIだけ、くどいようだけど)。

 これだけ手の込んだ仕上がりで、アナログ的操作を多用したカメラは(富士フイルムのXシリーズのカメラもうそうだが)、必然的にコストがかかる。価格は高くなる。
 そのへんのことに理解が及ばない人たちは、残念なことだがすぐに「高いカメラだ」と単純反応してしまう。良いものは高いのだ。カメラも同じ。
 安い価格のカメラを作るには、あちこち手を抜かなければいけないし、コストのかからない材料を選ばなくてはならない。スタイリングもそっけなくなる。見るからに安っぽい、そんなカメラでいいというなら、それはそれでいいでしょうけれど、ぼくはそれはイヤだなあ。

動くハウルの城ではないか、このカメラのメニューは

オリンパス・PEN-F+M.ZUIKO DIGITAL ED 12mmF2

 「PEN」とネーミングされているから、はじめはPシリーズの流れを汲んだものかと考えたのだが、どうもそうではなくて、Pシリーズ/OMシリーズとは違った新しい(独立した)ラインのカメラらしい。アナログ的な操作部や考え方をふんだんに取り入れた、ややクラシックな雰囲気のあるカメラでもある。
 ぼくにとっては、いま、好感度バツグンのカメラのひとつだ。男性にも女性にも似合いそうなユニセックス的カメラという気もする。




 ただし、最近のオリンパスのカメラに共通した特徴でもあるのだが、新型カメラがでるたびに撮影機能や新しい設定項目がどんどん追加されて複雑難解なカメラになるといった、そうした傾向がこのPEN-Fには著しい。
 メニューの中を覗いてみると、まるで「動くハウルの城」のようで、大小のプレハブ小屋が大急ぎで付け足されているようだ。だから目的のところになかなかたどり着けない。
 新しい撮影機能が盛り込まれるのは、それはそれでいいとは思うのだけどもう少しシンプルでわかりやすいユーザーインターフェース(UI)にできなかったもんだろうか。

 でも、メニューの複雑なUIと一部の難解な撮影機能を少しガマンすれば、このカメラはとても魅力的。とくに、ぼくが好きなスナップ撮影にはもってこい、のカメラだ。シルバーとブラックの2モデルがあるが、シルバーはスナップ撮影をするにはちょっと目立ちすぎるようなのでブラックモデルのほうを選んだ。
 サイズも重さもベスト。好みではないバリアングル式の背面モニターではあるが、これをくるっと裏返してEVFを覗いて撮影すれば、まるでフィルムカメラのような気分にもなれる。

 ボディ前面にある奇妙なダイヤルや ━━ カメラをホールディングするときに中指をそのダイヤルに引っかけるとぐんと持ちやすくなる ━━ その他の新しい撮影機能や操作部はいっさい「無視」することだ。時間をかけてPEN-Fを使い続けているうちに、気が向いたときに少しづつ新しい撮影機能を試していけばよい。それまでは純粋に写す道具として割り切って使えば、こんな愉しいカメラもない。