12月20日(金)


"理想レンズ"の真逆に向かうシネレンズと写真の将来


 本日は写真撮影用(スチルカメラ用)のレンズではなくシネマ用レンズの話です。
 ぼくは昔、16mmムービーの撮影をやったことがある程度で、いまの動画撮影カメラやレンズについては不如意です。おはずかしいですがそこを承知の上で話をつづけます。

 シグマから興味あるシネレンズが発表されました。「FF Classic Prime Line」レンズで、その"描写"におおいに注目したというわけです。
 14mmから135mmまでの単焦点レンズ10本セット販売のみで、価格は税別で約600万円。



 シグマ製シネレンズのほとんどは、スチルカメラ用(一眼レフ用やミラーレス用)交換レンズをベースにして、それをシネマ用レンズに仕立て直しています。
 そもそも、シネマ撮影用、スチル撮影用を問わずレンズには優れた描写性能が要求されています。とくにデジタルカメラが高画素化するに伴って、いっそう高い描写性能が求められるようになりました。

 収差を可能な限り抑え込み、高い解像力と優れたコントラスト特性を備え、フレア/ゴーストが発生しないこと、発色性能がニュートラルであることなど"理想のレンズ"のために、特殊ガラス硝材や非球面レンズ、さまざまなレンズコーティングが開発され採用されています。

 ところがシグマのFF Classic Prime Lineレンズは、以上のような"理想レンズ"とは真っ向から逆行しているところが特徴です。
 構成レンズ面に施されたレンズコーティングのほとんど取り除くことで、その結果、ゴースト/フレアが出まくりでコントラストはなく、古い古いオールドレンズで撮影したかのようです。

 収差補正や解像力などのレンズ性能の一部については基本レンズそのままですが、レンズコーティングを取り去ることで、たったそれだけのことでゴースト/フレアがこんなにも出てくるのかと驚くほどです。画面全体の均一な描写力や優れた解像力など、"どこかに置き忘れてしまったのか"と思われるような描写です。





 シグマのホームページに、FF Classic Prime Lineレンズで撮影した動画があります。その動画から画面キャプチャしたのが上の写真です。
 色調が強いアンバーに偏っていますが、それは画像処理によるものか撮影レンズそのものの発色傾向なのか不明です。

 コーティングを取り除いたことで光の透過率が大幅に低下して、そのためT値が(シネレンズではF値は使いません)、たとえば従来レンズが「T1.5」だったのが「T2.5」と暗くなっています。マウントはPLマウントのみ。

 最近のシネマ用レンズには、一部のユーザーにこうした特殊レンズの要望が多くあり、シグマ以外にもいくつかのレンズメーカーが似たようなテイストのシネレンズもあるようです。
 シグマの話では、FF Classic Prime Line のようなレンズをスチルカメラ用として出す考えはまったくない、とのことですが、いやいや、将来のスチルカメラのユーザーの趣味趣向がどのように広がっていくかわからず、ひょっとすると…という気もしないでもないです。



 昔のフィルム時代の古いレンズ、クラシックレンズとかオールドレンズというのでしょうか、そんなレンズを最新型のデジタルカメラと組み合わせて撮影を愉しんでいる人も多くいます。
 ゴースト/フレアが出たり収差がいっぱい残っていたり解像力がなくて写りが"悪く"ても、それがレンズの味だ、愉しいのだ、というわけです。

 ぼけ味についても、いまは「良い悪い」の評価は無意味になりつつあります。丸ぼけや柔らかいぼけが「良いぼけ」だとは言い切れなくなってきています。
 固いぼけ、二線ぼけ、リングぼけ、そのほうが「ぼけ」らしくて好きだ、良いのだ、写真らしい、と高く評価する人がたくさん出てきています。事実、雑誌やポスター、新聞などで強烈な二線ぼけや収差出まくりの写真を最近、よく見かけるようになりました。

 写真の描写とはこうあるべきだ、とか、レンズ性能はかくかくしかじかの条件を満たしていないといけない、といった古くからのがんじがらめの評価基準は、これからの写真表現の世界では重要視されなくなっていくかもしれません。
 写真もカメラもレンズも、どんどん多様化していくに違いないと思います。その一例がシグマのFF Classic Prime Lineのようなレンズかもしれません。

 カメラもレンズも、そして写真もとってもイイ時代に向かい、自由な写真表現の方向に進みつつあるような気がして、ぼくは嬉しい限りです。





2019.12.20 | | Comments(3) | Trackback(0) | -

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