1月14日(火)


永遠の命を受けた尾長鶏





リコー・PENTAX K-1 Mk2 + smc PENTAX-FA77mmF1.8 Limited


 レンズの描写性能の評価軸には、大別すると「結像性能」と「感応性能」のふたつがあります。
 結像性能は数値で表示(定量化)することで客観的に評価できます。感応性能は文字通りどのように感じるかで、評価する人によって軸がぶれることもあり定量化することが大変に難しい。

 たとえば、結像性能は解像力だとかMTF、階調再現性、色の偏り、逆光特性などのパラメータを数値に置き換えて表すことができます。感応性能は写った画像を見て「ぼけ味」の具合とか「透明感」の程度とか、「奥行き感」、「コントラスト」など"見たときの気分"の良否を総合的に判断して評価します。好き嫌いや経験則などの影響を受けることもある。

 科学記録写真や星座写真などでは、なによりも結像性能が重要で、感応性能はレンズ性能の評価の対象となりません。しかし、私たちが撮影する対象は森羅万象であるだけでなく、写真表現するとなると、極論ですが結像性能はそれほど重要視されないこともあります。



 一般撮影用レンズは、結像性能も感応性能も同じように大切なものなのですが、困ったことにどちらかを優先して設計すると片方の性能がおろそかになります。このことはいまも昔もレンズ設計での難問です。

 PENTAXはそこで少し思い切ったレンズを企画することにしました。
 結像性能重視型のレンズばかりを追い求めるのではなく、感応性能に比重を置いた個性的な写りのするレンズがあってもよいのではないか、と企画され開発したのがFA Limitedレンズだったというわけです。

 つまり、FA Limitedでは、数値的に優れた解像力重視型の描写性能よりも、感応的に優れた気持ちの良い写りを優先したレンズを作ろうとしたわけです。そのためには、敢えて少し収差を残してもいい。
 現代のレンズのように徹底的に収差を補正する光学設計ではなく、感応的な描写特性を最優先するために、微妙に、必要最小限に、収差を残して設計することにしたわけです。
 当時としては(いまでもそうですが)イレギュラーで大胆な設計手法を採用したレンズだった。



 通常レンズの企画や設計は、焦点距離、開放F値、大きさ重さ、価格などスペックをあらかじめきっちりと決めます。それをベースにして光学設計や鏡枠設計、電気系設計の担当者が議論しながら、光学設計が始まり、必要に応じて鏡枠設計やエレキ担当と話し合いながら進めていきます。
 FA Limitedレンズの開発が始まったのは20年以上も前のことでした。いまのように合理的でシステマチックなレンズ開発に比べれば、とくに光学設計は、まだまだ個人の技術力に頼る部分も残っていました。

 FA Limitedレンズは、焦点距離や開放F値などの"制約"は曖昧でアバウト。どんな描写のレンズに仕上げるかは、光学設計者の裁量にまかせることにしました。重要視したのは感応性能に優れたレンズを作ることでした。
 レンズ価格も少しぐらいなら高くなってもいいぞ、なんて今から考えればレンズ設計者にとっては「夢の企画」でした。



 そのFA Limitedレンズを担当したのが、当時PENTAX光学設計のホープでもあった平川 純さんでした。
 FA Limitedは少し特殊な例でしたが、担当を任された平川さんが、がぜんやる気をだしてどしどし自分がやりたいように設計したのが43mmと77mmのLimitedレンズだったのです。

 平川さんは「写真レンズとはどうあるべきか」のフィロソフィーをしっかりと持った人でした(少し変わりモンで頑固な人ですけど)。平川さんに光学設計の担当を任せたのが、そのときの光学設計部の責任者が小川良太さん。FA Limitedを語るとき、その人のことも忘れることができません。

 繰り返しになりますが、当初のFA Limitedのコンセプトは、既存の定番の焦点距離でなくてもいい、レンズ価格が少し高くなってもいい、ともかくPENTAXの写真レンズらしい描写性能を最優先しようというものだったわけです。




2020.01.14 | | Comments(6) | Trackback(0) | -

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