結像性能と感応性能

ニコン・AF-S NIKKOR 105mmF1.4E ED + D810

 ここ数年、ふたたび写真レンズの性能が、描写、機能ともに著しく良くなってきているように思われる。
 レンズが良くなってきたなあと感じた「節目」が2つほどある。
 ひとつの「節目」はフィルムカメラからデジタルカメラに切り替わってしばらくした頃だろうか。フィルムカメラではほとんど問題にならなかったあれこれが、デジタルカメラになって次々と顕在化してきた。イメージセンサーに光が反射してゴーストを発生させたことなどが一例だ。それらに対応すべく対策を施したり修正を加えたりしたレンズが出てきて(出さざるを得なくなって)結果的に性能も向上してきた。

 もうひとつの「節目」はイメージセンサーの高画素化と画像処理技術の向上によるデジタルカメラ高画質の時代に入った頃だ。冒頭に言った「ここ数年」のことである。
 レンズの描写性能のレベルを大幅に向上していかないと、カメラの実力を充分に発揮できないばかりか、逆にレンズのプアーな性能が目立ってくるばかりになる。レンズにとっては、カメラ側の性能向上に適応させるべく"否応なく"性能を向上しなくてはならない状況に追い込まれていったわけだ。
 ちょうどその頃、レンズ全般にわたる技術革新がいっきに進んだこともレンズの高性能化に大きく寄与している。




 とにかく性能の良いレンズを作らなくてはならない。
 しかし、性能の良い、写りの良いレンズを作ろうとすればするほどコストアップにつながる。レンズ設計でシミュレーションを繰り返し充分な時間をかける。高価な特殊レンズを使う。光学レンズを多く組み合わせて収差を補正する。時間と手間をかけて調整を繰り返しながら組み立てる。レンズが高価になるのはとうぜんである。

 ところで、先程からレンズの描写性能とひと言でいっているが、じつはそこには二つの重要な性能がある。レンズの描写性能を見極めるときの判断基準と言ってもいいだろう。
 「結像性能」と「感応性能」である。
 結像性能とは、MTF特性、解像力、コントラスト、残存収差などである。そのいずれもは数値化して客観的、理論的に評価ができる。それに対して感応性能は、ぼけ味、諧調描写力、透明感、立体感などだ。個人的な趣味趣向や好みにやや左右されやすい。感覚的で主観的な評価軸といえなくもない。

 デジタルカメラ時代になって、というよりも最近のレンズ描写の傾向として、結像性能のほうに重点を置きすぎて感応性能のほうは、やや軽く扱われている傾向があったようにも感じられる。
 誰が見ても「描写性能の良いレンズだ」と評価してもらえるレンズを作ることが最優先されたとき、感覚的で曖昧で個人的趣味に左右されるような感応性能になんぞかかわってられない。とにかく、数値ではっきりとわかる解像力やMTF特性の向上をめざさなくてはならない。ハイコントラストでばりばり描写で解像力の凄さがわかるようなレンズ、そんなレンズがあちことから出ているのはそうした理由による。

 しかし、ぼけ味や諧調描写性といった感応性能を置き去りにしたようなレンズが、はたして「描写性能の良いレンズ」と言えるのかどうか。結像性能と感応性能がバランス良く備わったレンズこそ写真レンズとして「良いレンズ」と言えるのではないだろうか。感応性能こそ、レンズの味、レンズのアイデンティティの決め手となるのではないか。

 ニコンの105mmF1.4レンズが、以上のような意味で、結像性能と感応性能に充分に配慮して設計、製造されたレンズだと言ってもいいだろう。

 ニコンはしばらくの間、レンズ描写性能のそのへんのことをあれこれ考えながら試行錯誤をしているようなところもあった。世の中が、ばりばり解像感重視型レンズを大歓迎する風潮の中にあっても、ニコンは「がんこ」に感応性能にも重点をおいてレンズを作り続けようとしてきたのではないだろうか。
 58mmF1.4レンズのように感応性能まっしぐらの設計をして失敗した例もあるが、しかし今回、105mmF1.4レンズでうまくバランスのとれたレンズが作れたのだから、苦労した甲斐もあったのではないか。

 ニコン以外にも、まじめに結像性能と感応性能のバランスを考えながらレンズを作っているメーカーはいくつかある(多くはないけれど)。
 そうしたメーカーのレンズは、ばりばり解像感重視型レンズに比べると目立ちにくく、わかりにくい描写特性のため苦戦しているようだが、ぼくとしては、ぜひがんばって「ほんとうの描写性能の良いレンズ」を作り続けて欲しいなあと思うわけですよ。