クアッド・リニアモーター方式

富士フイルム・X-T1+XF90mmF2 R LM WR




 当初、XFレンズはピント合わせの方式に、全体(全群)繰り出しや前群繰り出しというAF対応レンズでは珍しくなった方式を「愚直に」採用していた。何度も繰り返して言っているが、優れたレンズ性能を得るためだ。
 全体繰り出しや全群繰り出し方式のピント合わせは光学性能には大きなメリットがあるのだが、いっぽうでAFスピードが遅くなるというデメリットもある。富士フイルムとしては、AFが少しぐらい遅くても光学性能が良ければユーザーは納得してくれるだろう、とのヨミがあったのだろう。ところが、そのフジの予想に反して「AFが遅いぞ、素早くピントが合わないぞ」とAFスピードの文句ばかりを言われ続けた。レンズの描写性能を褒めてくれるユーザーはごくごく限られた少数の「ホンモノがわかっている」人たちだった。

 ぼくの持論だけど、AFはスピードじゃない、正しく確実にピントが合うことのほうが大事なのだ、と。しかし、そう考えていない人が(意外と)多い。
 そんな人たちから、頭ごなしにAFが遅いっ、と言われ続けて富士フイルムのレンズ設計陣はすっかりトラウマになってしまったようだ。でも、そうは言われても、描写性能に満足できないようなレンズを設計することはできるだけ避けたい。そこでフジが採用した方法が、強力なモーター(AF駆動用のアクチュエータ)を使ってぐいぐいと力まかせにレンズを前後させた。
 とにかくフジがやりたくなかったのは(ぼくの想像だけど)、高速AFのためだけにAF光学系を小さくしただけの"安易でありふれた"インナーフォーカス方式の採用だったのではないか。

 AFスピードを少しでも速くするために、インナーフォーカス式の光学設計を取り入れたXFレンズも最近ではいくつか出てきているが、しかし駆動するAF光学系は大きくて重いレンズ構成にこだわっている。軽く小さいレンズ群にしてしまうと、納得のできる光学性能が得られないと考えているからだ。
 重くて大きなレンズ群を高速で動かそうとすればパワーのあるモーターが必要となる。強力なモーターは大きくて嵩張る。でも、AFスピードアップのためには仕方ない…。

 とかなんとかの、そんな事情があってのXF90mmF2レンズなのである。
 この90mmF2レンズはインナーフォーカス式だが、AF光学系は2枚貼り合わせだが大型のレンズを使っている。だから重い。それをスピーディーに動かすためにモーターを4個も使っている。4個のモーターはリニアモーターの一種であるボイスコイルモーター。これが富士フイルムが言うところの「クアッド・リニアモーター」方式である。
 この写真を見てみるといいだろう。左から、モーター2個の「ツイン(デュアル)・リニアモーター」、真ん中がモーター3個の「トリプル・リニアモーター」、そしてXF90mmF2レンズに採用されている4個モーターの「クワッド・リニアモーター」の方式である。

 よく見比べるとわかると思うが、リニアモーターのサイズがツインやトリプルに使われているものと比べて90mmのそれがだいぶ小さい。ボイスコイルモーターのコイルの巻き方を工夫してコンパクトにしたそうだ。だからそれほどレンズ鏡筒が太くせずにすんだわけだ。
 XF90mmを使って至近距離の60センチから無限遠までピント合わせしてみると、「XFレンズじゃないみたい」と思うほどにAFが高速になっている。これでXFレンズはAFが遅いなんて、言わせないぞ、という富士フイルムのレンズ開発者たちの声が聞こえてくるようだった。

 これでXF90mmF2 R LM WRレンズの話はおしまい。