石橋を叩いただけでは渡らないキヤノン

キヤノン・EOS 5DsR+EF24~70mmF2.8L II USM




 キヤノンはなかなか「冒険」や「チャレンジ」をしないカメラメーカーである。臆病だという意味ではなく堅実、着実なのだ。石橋を叩いて渡るというよりも、繰り返し石橋を叩いてから鉄板を敷いて渡る、というイメージか。いっぽうで ━━ 意外だと思う人もいるだろうが、ニコンはじつにチャレンジングで、新しい技術をカメラに積極果敢に採用するところがある。カメラだけについて言えば、ソニーはもっとそうしたチャレンジ傾向があり、傍目に見ていても愉しい。パナソニックはキヤノンと少し似たところがあってツマらないのだが、しかしキヤノンのほうにはパナソニックにない「夢」がある。
 キヤノンは新技術をカメラに搭載するときには、90%以上の確率で失敗も不具合もないことを確認してから、そろりと動き出す。そんな慎重さがキヤノンにはある。他の多くのカメラメーカーがすでに採用していて安心できるような技術や機能、機構であっても、キヤノンだけは独自の道をゆっくりと着実に歩むようなところがある(安心だけど、じれったい)。

 そうしたキヤノンの保守的傾向は、とくにカメラ開発の部門に根強くある。重い腰を上げない、走らない、飛ばない。それに対して、レンズの開発部門のほうは、進取の気分がとても強くて革新的。世界初、世界唯一に向かって邁進しようとする精神が旺盛で、こりゃあいったい同じキヤノンか、と思うほどに新製品に取り組む姿勢が違う。
 キヤノンではカメラやレンズの開発、設計や製造は、イメージコミニケーション事業本部(ICP)で取り仕切っている。そのICPの中で、レンズなど光学系の開発部門が「第一開発センター」、カメラの開発部門は「第二開発センター」としている。ぼくたちのイメージだと、カメラが「第一」、レンズは「第二」と思ってしまうが、実際はそうではなく逆なのだ。

 レンズ部門を「第一開発」としたことついて、あるキヤノンの役員は、「キヤノンは光学機器のメーカーとしてスタートした。カメラもレンズも作っているが、やはり優れた光学技術があってこそのカメラ。レンズが大切という気持ちを込めて第一開発に決めた」と、そんな話をしていたことがあった。
 さらに、あるキヤノンの親しい人がぼくに、「ウチの会社は、"レンズ交換式カメラ"を作ってるんではなく、"ボディ交換式レンズカメラ"を作ってるんですよ」、なんて冗談交じりに言っていたことがあったが、じつに言い得て妙な、ずばり言い当てているではないか。

 その保守的気分をたっぷりと持ったキヤノンのカメラ開発の「第二開発センター」が、とくに中級機種、高級機種で、なかなか前に一歩踏み出そうとしなかったことが2つあった。
 1つが、イメージセンサーの高画素化。もう1つが、ローパスフィルターをなくしたモデルを出すことだった。他のライバルメーカーが次々と高画素化したり、ローパスフィルターを取り去った機種を出しているのに、「第二開発センター」のほうはまったくそれに対抗する気配も見せない(じつは密かに石橋を叩いていたのだろうけど)。キヤノンのユーザーたちはそんな他社製品が出るたびに、「キヤノン、どうしたんだ?」といらいらする。しかし、キヤノンは黙して語らず、独自の道を歩む、といった姿勢を長く続けてきた。

 ところが、ついにやってきた。あの、山のように構えていた「第二開発センター」がのっそりと動いて、2015年今年の春に発表したのが、5060万画素フルサイズ判センサーを搭載したり、ローパスフィルター効果なしにしたり、のカメラがEOS 5DsとEOS 5DsRだったというわけなのだ。